月夜見
 残夏のころ」その後 編

    “初売りは寒さとの闘い?”


最近は、盆も暮れも関係なく、
店が開いてて普通に買い物が出来る御時勢になった。
大きいチェーンスーパーや百貨店なんかは、
そりゃあ大きな自社倉庫や配送センターなどに
生鮮品でさえ買い溜めしておけるのだろうし、
冷蔵設備も冷蔵車もずんと性能がいいものが普及している。
規制緩和後の過当競争が
ドライバーに無理をさせていないか云々と問題視されつつも、
輸送全般の精度も上がっていると来て。
さほど在庫を置けない小さなコンビニであれ、
平生とあんまり変わらぬ発注で、ちゃんと商品補充が出来るため、

 「昔は 正月の3が日といやぁ、
  どこの商店街でもシャッターが降りていて。
  鶴亀とか目出度いイラストがデカデカと描かれたポスターに、
  新年の営業は4日からとさせていただきますなんて、
  新年早々、おわびが書いてあるのが貼ってあるのが
  恒例の風物詩だったんだがなぁ。」

今時は元旦から営業が当たり前、
しかも“福袋”や初売りで客を集めようってほどだもんな、と。
見栄えは若い方の年齢不詳で通っている赤い髪の店長さんが、
販売業関連の今昔の話から始まってのごちゃごちゃを並べつつ、
やれやれと言いたげな、妙に年寄り臭い物言いになっており。

 「御託は良いから、とっとと配置についてくれませんかね。」

相変わらず口の達者な店長さんが、
そのくせ体のほうは、
陽あたりのいい店長室のデスクにへちょりと懐いておいでなのへ。
そんなお偉いさんの彼を、
何なら力技を使ってでも引き剥がすのを職務としている、
鋭角的な渋い風貌に、筋骨も隆としていて恰幅のいい副店長さんが。
半分くらいは一応の敬語を使いつつも、
ドスを利かせた口調にて、ほら立った立ったと言い聞かす。

 だって今日凄げぇ寒いじゃんか、
 3が日はまだマシだったのに何この冷え込み。

 高校生じゃないんですから、
 その物言い辞めてくれませんかね。

 お、ウチのバイトの高校生たちは、
 皆 口利きがきれいな子たちばっかだぞ。

 だったら尚更、辞めてください、と。

店長室にてしょむない揉めようをしているのは、
まま半分位は、演技というか、じゃれ合いのようなものなれど。

 「元旦から働き詰めだぞ、こっちは。
  それも、寒い寒い店頭販売のフォロワーと来た。」

 「ツイッターみたいに言いますか。」

大体、昼の間だけだし、
南向いてる場所なんだから温かいでしょに。
だから その温ったかさがだなと、
いい大人がごにょごにょと揉めている、
事務棟からちょいと離れた店頭スペースでは、

 「うう、ちょっと寒いよな、今日は。」

客足が途切れたお昼前、
この店 恒例、ドーナツとフレンチドッグの店頭販売を担当中の、
童顔お元気高校生が。
ご大層なボアつきスカジャンの襟へふくふくした頬を埋めつつ、
ぶるると肩を震わせ、
そちらも中綿入りの作業ズボンをはいた足元を
じたばたと足踏みさせて見せる。
店長さんの言いようではないが、
クリスマスの後ぐんと冷え込んだものが、
お正月は持ち直して いいお日和続きだったのに。
週が明けてのごくごく普通にあちこちが仕事初めとなった今日は、
昼になっても気温が上がらず、
しかも時々ひゅうぅんと凍るような風も吹いていて。

 「晴れてるのにこれはないよな。」
 「そうッすね。」
 「昨日までは温かい方だったのにな。」
 「そうッしたね。」

ご近所の均衡農家から集めた、朝採り野菜中心の
直販スーパー“レッドクリフ”だが、
中規模コンビニレベルの食品商品も置いている関係から、
在庫倉庫も結構良いのを備えており。
実は近隣に此処までの店舗がなくて重宝がられている関係もあってのこと、
こちらもまた何年も前から、
農家の皆様はお休みでも、元旦からの営業形態になっているそうで。
かてて加えて、昨年ご近所にオープンした、
輸入家具や雑貨をお値頃にしかも大量に扱う大型店舗が、
一種のレジャーランド扱いで
家族連れなどの客足を集めているもんだから、
駐車場をお貸ししたりする関係もあり、
おざなりどころか、結構なにぎわいになっている模様。
とはいえ、
車でちゃーっとやって来て、
わいわいはしゃいでお買い物して、
ササーッと帰ってくお客様は良いが。
オープンスペース担当の店員さんは、
堪ったもんじゃあないのが、この寒さ…と来て。

 「シャンクスもさー。
  お正月だからって特設スペースまでやるこたないのによ。」

割引券が当たる福袋とか、福引までは判るけどサと、
温かいテイクアウトの店頭販売コーナー担当を
またもや割り振られちゃったお元気坊やのルフィさん。
正月早々のお仕事が、
選りにも選って 忙しいわ寒いわってなに?と、
不満たらたらなお言いようをこぼしておいで。
確かにお客さんもたくさんおいでで、
さすがお正月で、皆して笑顔のお客様ばっかだし、
愛想振って笑ってもらってという“接客”は結構楽しいけれど、

 『使い捨てカイロとヒーター板だけなんて苛酷すぎ〜〜〜っ。』

元日や2日目辺りはお祭りムードに盛り上がっていたけれど、
さすがに3日目ともなると、
寒いわキツイわで、待遇改善しろーっと叔父さん店長に食いついたほど。
そしてそれへと、

 『よっし、わかったっ!』

太っ腹なシャンクス店長、どんと胸を叩いて応じてのいわく、
搬入担当で やはり元日から…というか、大みそかも来ていた剣豪青年を、
特別残業として甥っ子の相方に送り込み、
ご機嫌値アップという対応をしたのはおサスガで。
お正月特別出勤の4日目5日目に至って、
急に寒さが増したところへの投入は、
それなり効果を上げてもいる模様。

 「さ、寒い〜。」

さすがのお元気坊やも、
何もしないでいるのは寒くて堪らないようで。
客足がはたっと止まってしまい、
ドーナツやフレンチドッグを上げる必要もない間合い。
じっとしていると足元からの寒さが半端ない上に、
吹きっさらしへの風が冷たいのを防ぐべく、

 『ちょっとそこでじっとしてろよなvv』
 『う…押忍。』

上背もあって背中も広い、そんな“大物”剣豪青年くんは、
ちょっと小柄なルフィの傍らに立っていると、
風避けのパーテーション兼オイルヒーターという
この状況下には何より頼もしい役どころをこなせておいでで。(おいおい)
ひゅううんと冷たい風が吹いてくると、
ささっと背中へくっつきやり過ごすという、
一見何かしらのゲームみたいなノリでいるお二人さんであり。

 「…今 交替するぞって出てったら恨まれないかな。」
 「何言ってますか。
  続きは休憩室か帰り道でやってもらやいい。」

あんたの場合、寒いところに立つのがヤだからってだけでしょうが、と。
どっちが上司なんだかというシニアコンビが
“交替だよ”と声をかけるまで、
自分たちが防寒という名目はどこへやら、
わあわあ、キャッキャ♪と、
気がつけば結構な明るさではしゃいでいたことに、
実は自覚がなかったことが明らかになるまで、あと5分ほど……。






     〜Fine〜  14.01.06.


  *今年一発目がこれってどうよという、
   相変わらずの焦れったいお二人篇でしたが、
   この子らは当分こんな感じかもですね。
   いよいよの寒ですが、まずは週末が一段とお寒いそうです。
   皆様ご自愛くださいませね?


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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